一部映画界隈で話題になっている『侍タイムスリッパー』を観てきました。評判通りのいい映画だったので早めに紹介します。
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あらすじは、幕末の会津藩士が討幕派の志士を京都で襲撃する際に落雷にあい、現代の時代劇撮影所にタイムスリップして、そこで切られ役として生活する話です。
公開当初はシネマ・ロサ単館での上映でしたが口コミで好評が広がり、今週はTOHOシネマズ日比谷などで拡大上映もされています。
私もTOHO日比谷に観にいったら劇場がプレミアムシアターで、大画面と大音量で楽しめました。主人公の低い声の会津弁がかっこよかったですね。
内容のネタバレにならない範囲で面白かったところを語っていきます。
この作品は「変わっていくもの」と「変わらないもの」の二つを対比させながら進んでいく。
「変わっていくもの」を作中から挙げるなら、それは日本の政体、侍の存在、時代劇の趨勢、個人の生死であったり。
一方の「変わらないもの」は、寺院の存在とセーフティネットとしての宗教、人間の空腹、物語による感動、好きなものへの愛、やるせない思いへのけじめ、そういったものが時代を超えて通じうるものとして描かれている。
これらの題材を巧みに組み合わせることで、先の二つを両輪としてそれに翻弄されながらも進んでいく、人の営みの力強さがスクリーンに表されている。
このような普遍性のあるテーマを扱うと作品が甘く陳腐になりがちだが、それを引き締めているのが話題の殺陣のシーンである。
稽古場の張りつめた空気や、撮影時のミスできない緊張感。そしてラストの立ち回りは、そこにいたるまでの待ち時間までもが、ここから先は引き返せない決戦の場であるぞという厳粛さに満ちている。
息を飲んでスクリーンを見つめる体験ができるのは、間違いなくいい映画である。
ちなみに、この作品に関するシネマカラーズのインタビューで、この監督がさらっと恐ろしいことを言っていた。
実は『カメラを止めるな!』を目指して作ったんですけど、あの作品は脚本と構成が発明的。これはまねできないな。でも、上映中の笑い声と最後に拍手という状況を再現できれば、オーソドックスな脚本のアプローチでも可能かもしれない。そんな思いで脚本を書きはじめました。
この中の「最後に拍手という状況」をオーソドックスな脚本で再現するということは、要するに「めちゃくちゃ面白い映画を逃げずに作ります」という宣言に他ならない。
この映画の評では「時代劇への愛」がよく語られるが、愛だけでは映画はよくならない。内なる愛を空回りさせずに画面に映しこみ、観客に同じような愛を持ってもらうには、確かな映画製作の手腕が必要なのである。
それを実現した安田監督は、間違いなく名手であるといえよう。
(なお、インタビューでは周囲の人にも恵まれた様子が語られていて、それも監督に必要な資質だと思う)
さて、来週は『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』、『犯罪都市 PUNISHMENT』、『Cloud』、Netflix版『シティーハンター』劇場公開など、楽しみな映画が9/27に同日公開され、『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』もあるので大忙しである。
てか『犯罪都市』シリーズの新作を年に2回も見られるなんてどんな年やねん。