whkr’s diary

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2023年に観た面白かった映画

2023年はコロナ禍の反動か大作映画も数多く公開され、この記事に入らなかったものも含めて全体的にクオリティも高く、豊作だったと思う。
2024年もその傾向が続いているようで、ついでに面白い近作も紹介したいと思いながら記事を書くのを先延ばしにしていたらどんどん分量が増えてしまったので、できるだけ早く別建てで紹介したい。
という訳で、とりあえず2023年のベスト3と面白かった作品を挙げる。


第1位
『リバー、流れないでよ』 (公式サイト

温泉街の老舗旅館が2分間のループに囚われる話。
持論だが、ループ物は観客から時間の感覚を切り離す反面、場面に繰り返し映し出される場所の魅力が問われる構造なのではないだろうか。
この作品では、老舗旅館のお勝手、ロビー、客間、別館という適度に非日常的な場所を通じ、複数のスタッフや宿泊客が関わることで、繰り返しを飽きずに楽しめる。
そしてなにより、裏手の小川で恋人が語らうシーンは、ループごとに表情を変える背景のあまりの美しさに泣いてしまった。
この映画は、この京都の貴船というロケ地を選んだことで成功したと言ってもいいだろう。


第2位
『コンフィデンシャル 国際共助捜査』 (公式サイト

韓国と北朝鮮アメリカの刑事が、協力して麻薬組織を追跡する話。
こちらも別のエントリとして書きたいけど、2023年以降はけっこう韓国映画を見ていて、そこにハズレがまったくなくて驚いている。中でもこれはエンターテインメントとして抜群の出来。
3人の刑事のキャラが人情系、ワイルド、エリートとそれぞれ立っていて、コメディもアクションも全く妥協がなく2時間圧倒されっぱなしだった。韓国の俳優って、銃を持たせてもナイフを持たせても皆めっちゃ動けるよね。
ストーリー構成も巧みで、韓国の刑事の妹と北朝鮮の刑事との少しずつ近づいていく関係が、次回作への引きとしてしっかり機能している。
本筋ではないけど気になったのは、コメディとはいえルッキズムがあまりに当然視されている点で、実社会でもこんな雰囲気ならしんどそうだなと思った。


第3位
『窓ぎわのトットちゃん』 (公式サイト

黒柳徹子という人間の根元を形作ったトモエ学園での体験と、それに忍び寄る戦争の影響を鮮烈に描いた作品。
戦場そのものを描かなくとも、戦争で失われるものがなにかを深く印象に残すことに成功している。2023年のアニメ映画ではベストであろう。
ちなみに原作を読むと、映画には出てこない世界的なスキーヤーやダンサーが脇役としてさりげなく登場していて、映画の家庭描写だけでなくそこにも文化資本の存在を感じることができる。
あとがきでトモエ学園の跡地として書かれている自由が丘のピーコックストアはまだあるようだ。


その他、順不同で面白かったものを語っていきたい。


『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (公式サイト
ああ、俺いま自我拡散系のSF観てるなあと感じられる貴重な体験だった。なかなか映像化されないジャンルだからね。
無限に拡散した自己を、キーとなる存在をよすがに収束させる展開も王道でよかった。
おバカなアクションも、今の香港では撮れなくなった香港映画っぽくて懐かしかった。


『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』 (公式サイト
敵役の殺し屋タッグが、襲撃前に自らを鼓舞するために中学時代の部活のシュプレヒコールを上げるシーンを見て、「ああ、これは俺が住んでる日本の話なんだな」という実感が急に湧いてきた。
こういう「ここは俺たちの世界なんだ」と思わせるギミックが上手いんだよな、このシリーズ。


『イノセンツ』 (公式サイト
ノルウェー大友克洋オタクが、実写版『童夢』のお蔵入りに業を煮やして勝手に作ってしまった作品(監督がリスペクトを明言している)。
なので団地で子供が超能力を奮って争う。違いはコンクリートにめり込まないことくらい。
派手なエフェクトはないがどの画面も美しく、特にクライマックスシーンは静かな緊迫感に溢れていて、映像と原作の力を感じた。


『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』 (公式サイト
こちらも韓国映画。気鋭の監督による痛快なスパイアクションなのだが単館上映で、なぜなら抗日映画だからだと思われる。(もし本当にそれが理由なら、それが理由になること自体が残念であるが)
開幕間もなく、朝鮮神宮の巫女にピストルを持たせて日帝から来た総督を暗殺させようとするのが、とてもアナーキーな映像でかっこよかった。「オタク君こういうのが好きなんでしょ?」と言われた感じ。
これに限らず、最後まで撮りたい絵にこだわりが感じられて好感度が高かった。
日帝統治下の話なので、体制側は現地出身者含めてすべて日本語で会話し、そこから外れると朝鮮語で話すという非常に手間のかかった台本と演技になっており、流暢でありながら訛りのある日本語に感じる引っ掛かりが、植民地支配への違和感にも繋がっていくのだろう。もし吹替があるとしても字幕での鑑賞をお勧めする。
ちなみにこのイ・ヘヨン監督が『毒戦 BELIEVER』で撮った、塩田の麻薬アジトで冥銭を燃やすシーンがすごく好きで、これからもこの監督は追っていきたい。